さきほどはついつい空腹に負け、もっとも紹介したかった書籍『心』(ラフカディオ・ハーン・著)の話が駆け足になってしまいました。
遅まきの昼食のあと、レンタルDVDで見た「ラースと、その彼女」がよかったので、ちょいとご報告。
ラースという、人付き合いの苦手な青年がいて、一人でガレージに住んでいます。
同じ敷地内の母屋に兄夫婦が暮らし、兄嫁は彼のことを心配しているのだけれど、ラースにはそれがちょっとうっとうしい。
会社でも、だれとなく彼に女性社員とのデートを勧められるんですが、それがまた面倒で。
ところが、そんな彼がある日、兄夫婦に女友達が来たと知らせに来ます。
そこで二人が食事の支度をして出迎えると、なんと女友達は人形だったのです。それも、男性専用のリアル・ドール――。
などと書けば、アブナイ話の展開を想像してもいたしかたないでしょう。
そうでない作品だと前評判で知ってはいても、いったいどうストーリーを進めていくのか、出だしがここまで奇抜だと、尻すぼみになるのではないか、などと余計なことをあれこれ気にしながら観進めていったのですが、すぐにそれが杞憂だとわかりました。
ハートウォーミング――普段なら使うのが気恥ずかしい言葉ではありますが、今回は、得意げに言ってしまおう。そんな作品でありました。
なぜか。
登場人物がみな、やさしいんです。
これって、見ていて安心できますねえ。
まずは女医さん。
弟がイカレてしまったと思った兄夫婦(とりわけ兄)は、ビアンカ(人形の名前)が長旅で疲れているようだから医者に診せたほうがよいともっともな言い訳をして、翌日、彼と人形を病院に連れて行きます。
すると、兄夫婦にとっても意外なことに、女医さんはラースの前で大真面目にビアンカを診察してあげるのです。
そして、彼女の調子が良くないようなので、毎週、診察に連れて来てほしいと彼に言います。
ビアンカという存在が彼自身を反映しているのだということを、彼女は早くも見抜いたわけですが、彼を病人扱いせず、無理やり治療をしようとするのでもなく、彼の心の屈託が消えるまで付き合っていこうというのです。
お次は、町の人々。
兄夫婦は教会のメンバーに弟のことを相談に行きます。
最初は拒みかけた人も何人かいるのですが、結局、ラースをみんなで見守っていくことに同意します。
その理由がちょっとおもしろいのですが、まあ、それは作品で楽しんでください。
ともかく、ラースが人形を教会へ連れて来ると、生身の人間に対するように話しかけたりするのです。
そして、会社の仲間たちも同様に。
そうこうするうちに、ラースの抱えるトラウマのようなものが見えてくるわけです。
たとえば、母親は彼の出産がもとで命を落としたこと。
父親はそれ以来、心を閉ざしがちになってしまったこと。
それらを、ラースの心に影を落としていること。
あるいは、自分一人では判断できない人生の壁。
彼がお兄さんに「大人になるって感じたのはどんなときか」と尋ねていますが、そうした問題を簡単にクリアしてしまったり、それどころか皆が気にさえしない人間もいれば、ラースのように真剣に悩む人間もいるわけです。
しかもラースの場合は、身近で手本となるべき父親が、多分、その役目を果たさなかったことも一因しているかもしれません。
皆が彼にやさしいのは、ラース自身が親切でやさしく、それがために日ごろから皆が彼を好きだから。
そして、町中が互いの顔を見知っている小さい社会だから。
その前提が大人たちの無類の寛大なふるまいに説得力を持たせて嘘っぽくなく、うまい作り方だと感心しました。
そうはいっても、精神的迷子の青年一人のために、町中がこぞって寛大になるなんてことは実社会ではありえない話。
ですが、こうであったらいいと思わせるだけのリアリティを感じさせてくえるのも、この作品の長所ではないでしょうか。
実は女医によるビアンカの初診の場面は、最初は滑稽にもバカバカしくも見えるのですが、直後に彼女の意図することが伝わってくると、ごく自然に受け止められるようになります。
このしょっぱなでのエピソードが効果的で、のちに次々と出てくるその他の人たちの振る舞いも、大部分はほほえましく見えてくるのですね。
これは、脚本家、監督、俳優陣の力量がそろっているからでしょうか。
同時に、見る者も試される作品だよなあとつくづく。
付け加えると、DVDの特典の女優、ビアンカについての関係者のコメントがよくできていて、これもお勧めです。
さて、今度は夕飯だー。

